新しい命の誕生
フィオルダス邸では、赤ん坊の誕生が間近に迫り、屋敷全体が緊張と期待に包まれていた。リディア・フィオルダスは陣痛の波に耐えながら、自室の産褥用に整えられた寝台に横たわっていた。その周囲では産婆と侍女たちが必要な準備を進めていた。
「奥様、深く呼吸をしてください」産婆が優しく声をかけ、リディアの額の汗を拭った。
リディアは息を整えながら、陣痛の痛みに耐えていた。「分かっています……でも、こんなにも……大変だなんて」
そばにいるレイナはリディアの手をしっかりと握り、励ました。「お姉様、大丈夫。私たちがついているわ。あなたはこの子を迎えることだけを考えて」
侍女たちは必要な道具や温かい水、清潔な布を用意しながら、産婆の指示に従って動いていた。「すべて準備できています。ご安心ください、奥様」
一方、屋敷の廊下では、マルコムが部屋の扉の前で焦燥の表情を浮かべていた。「リディアは大丈夫だろうか?赤ん坊も……」
セドリックは兄の肩に手を置き、静かに声をかけた。「兄上、今は信じるしかありません。お姉様は強い女性です。僕たちができるのは、ここで無事を祈ることだけです」
「分かっている……でも、何もできないというのは、こんなにも苦しいものなのか」マルコムの言葉には、自分を責めるような響きがあった。
室内では、陣痛が最高潮に達し、リディアの息遣いが激しくなっていた。産婆は冷静な声で指示を出し続けた。「奥様、次の波に合わせて力を入れてください。その調子です!」
レイナはリディアの手を握り続け、「お姉様、あと少しよ。一緒に乗り越えましょう」と声をかけた。
やがて、赤ん坊の産声が部屋に響き渡った。その瞬間、全員が安堵の息をつき、産婆は赤ん坊を優しく抱き上げた。
「無事に生まれました。元気な男の子です」産婆が微笑みながらリディアに赤ん坊を渡した。
リディアは疲れた表情の中にも安堵と喜びを浮かべ、赤ん坊を腕に抱いた。「この子……こんなに小さいのに、こんなにも大きな希望を感じるわ」
レイナも涙を浮かべながら、赤ん坊の小さな手をそっと触れた。「本当に……愛おしいわ。お姉様、よく頑張ったわね」
部屋の扉が開き、産婆が外で待つマルコムに微笑んだ。「奥様も赤ん坊も、無事です」
その言葉を聞いた瞬間、マルコムは深く息をつき、安堵の表情を浮かべた。「ありがとう……本当にありがとう」
部屋に入ると、リディアが赤ん坊を抱きながら彼を見上げた。「マルコム、私たちの子よ」
マルコムは慎重に赤ん坊に触れ、小さな顔を覗き込みながら涙ぐんだ。「リディア、本当にありがとう。この子は私たちの全てだ」
赤ん坊の誕生は、フィオルダス家に新たな希望と未来をもたらした。同時に、それを守るための決意を改めて家族全員が胸に刻む瞬間でもあった。戦いの余韻が残る中、平和への願いが新たな命と共に生まれたのであった。