新秩序の必要性: クレマン商会との交渉
カストゥムのクレマン商会本部の応接室は、昼間の光を受けてなお暗く重い雰囲気を漂わせていた。アレクサンドルはロベール・クレマンとその長男セバスティアンの前に座り、彼らの周囲には商会幹部が緊張した表情で控えていた。
ロベールが口を開く。「アレクサンドル殿、君の提案を聞こう。しかし、まずはこれが商会にとって本当に利益になるものなのか証明してもらいたい」
アレクサンドルは静かに話し始めた。「まずは、私の友人リディア・フィオルダスについてお話しさせてください。彼女がフィオルダス家に嫁いだことは、クレスウェル家再興の重要な契機となりました。そして、先日生まれた彼女の息子、アウリスの誕生は、その絆をさらに強固なものとしています」
セバスティアンが興味を示し、身を乗り出す。「その話がこの提案にどう関わる?」
「クレスウェル家の再興がエリディアム全土に与える影響を考えてください」アレクサンドルは声に力を込めた。「地方ごとの自治が維持される中で、エリディアムは再び成長の兆しを見せています。しかし、この流れが統制を欠いたまま進めば、やがて混乱や戦乱を引き起こすでしょう」
「これを防ぐためには、統一された秩序を築く必要があります」アレクサンドルは机上の地図を広げ、エリディアムとカストゥムを示した。「セリーヌ陛下を中心とした新しい帝国が、この秩序を提供するのです」
フィリップが慎重に反論する。「だが、帝国が再編されることで、商会にどのような利益があるのか?」
「その答えはカストゥムにあります」アレクサンドルは自信を持って答えた。「カストゥムはエリディアムと外部地域を結ぶ交易の中心地です。帝国が統一的な税制と安定した治安を提供すれば、交易コストが削減され、貴商会の影響力はさらに拡大します」
ジュリアンがさらに問いかける。「現体制でも商会は十分に成功している。なぜ変化が必要なのか?」
アレクサンドルは鋭い視線を向けた。「現状維持は、外部からの脅威に脆弱です。帝国の秩序なしでは、地方ごとの利益争いが深刻化し、カストゥムもその渦中に巻き込まれる可能性があります。変化を恐れず、未来を選ぶ必要があります」
ロベールはしばし沈黙した後、低い声で言った。「確かに君の提案は理にかなっているが、成功する保証がなければ商会全体を納得させることは難しい」
アレクサンドルは一歩前に進み、真剣に答えた。「保証は、クレスウェル家とフィオルダス家のような連携の成功例にあります。そして、私たちエルドリッチ商会も、この計画に全力を尽くします」
ロベールは慎重に頷いた。「では、次回の会合でさらに具体的な保証案を提示してもらおう。それが納得できるものであれば、商会としての協力を考える」
会合が終わり、セバスティアンがアレクサンドルに歩み寄った。「アレック、君の話は父にも響いたと思う。ただ、さらなる説得が必要だ。次の会合までに具体的な案を用意してくれ」
「もちろんだ、セバスティアン」アレクサンドルは力強く答えた。「共に新しい時代を築こう」