未来への覚悟と新たな道
アレクサンドルとマリアナは、エルドリッチ商会の拠点であるカストゥムにある伯父オスカーの元を訪れた。アレクサンドルはこれまでの経緯と、自分の決意について伯父に伝えるため、穏やかながらも確固たる口調で話し始めた。
「伯父上、私はエルドリッチ商会の当主を継ぐ覚悟があります。しかし、マリアナと結婚するならば、私はロマリウス家に籍を移すことになる。それでも、エルドリッチ商会には籍を残し、当主として務め続けたいのです」
オスカーはアレクサンドルの言葉に少しの驚きを見せ、真剣な表情で彼を見つめた。しばしの沈黙の後、厳しい声で言葉を返した。
「アレクサンドル、お前の覚悟がしっかりしていることはわかる。しかし、ロマリウス家に籍を移し、エルドリッチ商会の当主として籍を置き続けるのは、周りから見れば非常に不安定な立場だ」
オスカーは、慎重で冷静な視線を崩さずに続けた。「エルドリッチ商会がこれまで積み上げてきた信頼と家の名を守ることがどれほど難しいか、お前にわかっているのか?それがどれほどの重みを伴うかをよく考えねばならない。お前がロマリウス家に入ることで、商会はどう影響を受けるのか、関係者たちがどう感じるのか想像してみるがいい」
アレクサンドルは深くうなずき、オスカーの指摘の厳しさを受け止めながらも、毅然とした表情を崩さずに応えた。「伯父上、私の決意は揺るぎません。マリアナとの結婚が商会にも良い影響を与えるよう、責任を持って取り組む覚悟です」
そのとき、マリアナが前に進み出て、はっきりとした口調で口を開いた。
「オスカー様、私もこの責任を自覚しています。確かに私はロマリウス家の人間で、今まで商会とは無縁でした。しかし、アレクサンドルを支えるために、そしてエルドリッチ商会の名と伝統を守るために全力を尽くす覚悟です」
彼女はオスカーをまっすぐに見つめ続けた。「私の家系やこれまでの経験が、少しでも商会の経営やアレクサンドルの支えになるよう全力を尽くします。そして、お二人の名前を未来に繋げることが、私たちの役割だと信じています」
オスカーはマリアナの真剣な眼差しに一瞬圧倒されるが、やはりすぐに思案顔になり、二人の覚悟が本当に現実を乗り越えるに足るものかを測り始めた。
「マリアナ嬢、あなたの言葉は信じたいが、商会というのは思っている以上に複雑で厳しい場でもある。そして、アレクサンドル、お前がたとえどれほどの覚悟を持っていても、ロマリウス家の一員として活動することがエルドリッチ商会の名や立場にどんな影響を与えるのか、考えなくてはならん」
オスカーは眉をひそめ、少し厳しい声で続けた。「お前たちの結婚が、エルドリッチ商会に不安定さをもたらし、家の信用に傷をつけない保証はあるのか?顧客や取引先が私たちをどのように見るか、それが商会の発展に悪影響を及ぼすことを、果たして理解しているのか?」
アレクサンドルは言葉を選びながら、しかし強い声で応えた。「伯父上、もし私とマリアナの間に子供ができれば、その一人にエルドリッチ家の名を継がせるつもりです。こうすることで、商会の継続と家名の伝統を守りたいのです」
オスカーは深い溜息をつきながらも、二人の覚悟に対する期待と疑念が交錯する表情を見せた。そして、ついにその口を開くと、ゆっくりとした口調で言った。
「よろしい、お前たちの決意と信念がそこまで確かなものであれば、私も見守ることにしよう。ただし、エルドリッチ商会の独立とその名を守ることを最優先にしてもらいたい。それができるという確信がなければ、私も簡単には認められない」
アレクサンドルとマリアナは真剣な表情で深く頷き、オスカーの信頼に応えることを固く約束した。「伯父上、私たちはそのために最大限の努力を尽くします」とアレクサンドルが誓うと、マリアナもまた「エルドリッチ商会とその名誉のために、全力を尽くします」と声を揃えた。
オスカーは二人を見つめながら、「ならば、全力でやり遂げてみせるのだ」と、静かに言葉を返し、その場を締めくくったのだった。