束の間の静寂
エリディアムの激闘を終えて数日、アレクサンドルたち「黎明の翼」は宿を見つけ、体と心を癒していた。街の騒がしさが薄れた夜、ようやく訪れた平穏な時間の中で、それぞれが戦いの余韻や傷を振り返っていた。傷だらけのリディアも、静かな一室に座り込み、戦闘中の自分と向き合っていた。
その夜、エリオットが何気ない調子で切り出した。「ねえ、こうして皆が一つの部屋でのんびりできるなんて、何ヶ月ぶりかな?」
カリスが柔らかな笑みを浮かべながら頷いた。「確かに、これほど静かだと何か物足りないくらいだ」
リディアは仲間たちの会話に耳を傾けていたが、ふと自分の居場所についての思いが胸を締め付けた。「私たち、ここまで来れたんだね……」ぽつりとつぶやいたその声は、自分でも驚くほどに小さく揺れていた。
アレクサンドルが静かに彼女の言葉を受け取る。「リディア、君があの場で見せた強さがあったからこそ、ここまでたどり着けたんだ。だからこそ……」少し間を置き、真摯な瞳で彼女を見つめる。「君には、君自身のことも、そして君の家族のことも考える時間が必要だ」
リディアは一瞬、その視線を避けるように目を伏せた。家族のことが頭をよぎる度に、自分の中で湧き上がる責任感と心の葛藤が胸を突く。それでも、彼女はいつか家族を再興するため、そして自分自身の道を進むための決意を固めていた。
エリオットも優しい声で語りかける。「リディア、僕たちも少し休んで、エリディアムの景色を楽しんでみよう。君が……家族と過ごすために、少しだけでも会ってきたらいいんじゃないかなって思うんだ」
彼の言葉に、リディアは微かに唇を噛んだ。「そうね……会わなければいけない時が来たのかもしれない」
その場の雰囲気が一層穏やかになり、彼らはそれぞれが自分の道について考える時を静かに迎えていた。それは、束の間の平穏であったが、次の一歩へと向かうための決意を固める時間でもあった。