結婚の許可を求めて
アレクサンドルとマリアナは、早朝の澄んだ空気を背に、アルヴォラ郊外に広がるロマリウス家の領地へと馬車を走らせていた。目的はマリアナとの結婚の許可を得ること。そして、それは容易なことではないだろうと二人は承知していた。
ロマリウス家の邸宅に到着し、重厚な門をくぐると、マリアナの父であるアルベリクが厳しい表情で二人を出迎えた。広間に通されたアレクサンドルは、背筋を伸ばして彼に向き合った。
「さて、アレクサンドル君。君がどのような覚悟を持ってこの話をしに来たのか、しっかりと聞かせてもらおうか」とアルベリクが言葉を切り出すと、その声には疑念と厳格さが色濃く滲んでいた。
アレクサンドルは一歩前に出て、彼の目を真っすぐに見つめた。「マリアナとの結婚の許可をいただきたく、参りました。そして、エルドリッチ商会の当主としても責任を果たす覚悟です。ただし、僕がロマリウス家に入ることになります」
アルベリクは眉をひそめ、口元を歪めた。「結婚だと? 君がロマリウス家に入ることで、どれだけの価値をもたらせるというのか。エルドリッチ商会を守る覚悟があると言っても、口先だけで信じるわけにはいかん」
アレクサンドルは深呼吸し、決意を込めて話を続けた。「僕はこれまで多くの人々を守るために命を懸けて戦ってきました。そして、これからも大勢の人々を守るために尽力するつもりです」
アルベリクが「ならば行動で示せ」と低く言い放ったとき、マリアナが一歩前に進み出た。彼女の目には揺るぎない決意が宿っていた。
「お父様!」マリアナは力強い声で話し始めた。「アレックはこれまで命をかけて人々を守ってきたわ。クレスウェル家のリディア姫を救出したのも、彼の勇気があったからこそ。そして今、クレスウェル家を陥れた月の信者たちと戦おうとしているの」
アレクサンドルが困惑した表情を浮かべると、マリアナはハッとした顔をしてしまった。月の信者たちのことを口にするつもりはなかったが、思わず言葉がこぼれたのだ。
アルベリクはその言葉に眉をひそめた。「月の信者たち、だと?」彼の目には、驚きと不安が入り混じっていた。「できれば関わり合いになりたくないが……
彼はしばらく沈黙した後、ため息をついた。「クレスウェル家の噂は耳にしている。リディア姫が失踪したことも、町の話題になっていた。君たちの話はにわかには信じがたいが、マリアナが嘘を言っているとは思えん」
マリアナは、さらに一歩父に近づき、続けた。「形の上ではアレックは騎士ではないわ。これから騎士になることもおそらくできない。でも、本当の騎士というのは、命をかけて人々を守る者のことではないの?」
アルベリクは一瞬目を閉じ、そして娘を見た。そこにいるのは、幼い頃に彼が守りたかった娘ではなく、成長し、覚悟を持つ女性だった。彼は少し顔をほころばせ、「成長した娘に説教されるのも悪くないな」とつぶやき、苦笑いを浮かべた。
エリゼが柔らかく微笑んだ。「マリアナが旅に出たとき、このような日が来るか、それとも落胆して戻るかと覚悟していました。でも、今この結果があるということは、二人の絆が本物なのでしょうね。私は賛成します」
マリアナの妹カトリーヌも嬉しそうに頷いたが、内心ではアレクサンドルがロマリウス家に入ることで自分の負担が減ることも喜んでいた。
アルベリクは、家族の賛成の声に少し気を緩めたが、再びアレクサンドルを見据えた。「ならば行動で示せ、アレクサンドル。君がどれほど真剣にこの家を支える覚悟を持っているのかを」
アレクサンドルは深々と頭を下げ、「必ず証明します」と誓った。その誓いには、これから待ち受ける数々の試練に立ち向かう覚悟が込められていた。
アレクサンドルはその後、自分の両親にも結婚のこととエルドリッチ商会を継承する決意を報告することを決め、情報インフラの確立が急務であると再確認しつつ、未来に向けた一歩を踏み出した。