迫り来る陰謀
エリディアムに静かな緊張が漂っていた。ヴァルドール家の当主、アルフォンス・ヴァルドールは書斎でドレヴィス家のエドモンド・ドレヴィスと密談をしていた。重厚な木製の机を挟んで座る二人の老練な貴族たちは、互いに言葉を交わしながらも、その目には慎重さがうかがえた。
「エドモンド、クレスウェル家が再興するとなれば、我々の地位が揺らぐことは避けられない」アルフォンスは渋い表情で言った。彼の妻、イザベラは静かに頷きつつも、心の内では不安を隠し切れなかった。
「その通りだ」エドモンドは冷ややかに答えた。「アントニオ・アルヴァレスとも話をつけてある。クレスウェル家を経済的に追い詰める策を実行する予定だ」
ジュリアン・ヴァルドールもその場に同席し、父の意図を汲み取った。「経済的圧力だけでは不足だ。軍事的にも備えなければ」
アルフォンスは息子に目を向けて頷いた。「ジュリアン、部隊の準備は怠るな。アデレイドやレオニードの安全も最優先だ」
その頃、大商人のリヴァルド・ケレンは商会内で会合を開いていた。彼の妻イヴェットは沈黙を守っていたが、リヴァルドの表情は深く考え込んでいる様子だった。
「クレスウェル家が動き始めたとなると、取引関係も影響を受けるだろう」リヴァルドは厳しい口調で言った。「彼らが再興を目指すのなら、我々も慎重に対応しなければならない」
長男のエドアルドは真剣な眼差しで父を見つめた。「父上、クレスウェル家と再び取引することは可能でしょうか?彼らはかつて我々に多大な利益をもたらしてくれた一族です」
リヴァルドは腕を組んで考え込んだ。「そうだな。だが、簡単に手を組むわけにはいかない。現状を見極め、どちらに転んでも損をしないようにしなければ」
次男のアレックスも口を開いた。「私たちの商会は他家との取引で成り立っている。もしクレスウェル家が再び力を持つならば、その影響を予測しておく必要があります」
リヴァルドは冷静に頷いた。「その通りだ。私たちは商人だ。感情ではなく、利益に基づいて動く。それを忘れるな」
彼の言葉には、月の信者や陰謀といった噂には振り回されず、あくまで商業的な現実に根差した考えが反映されていた。
一方、エヴァンド家の当主ガレオン・エヴァンドは一族を集めて対策を話し合っていた。妻アニサが静かに家族の様子を見守る中、長男レオンは熱心に語った。「父上、クレスウェル家が再興するのなら、彼らに協力する道を探るべきです。かつて彼らは我々と共にエリディアムを守ってくれたのですから」
ガレオンは息子の言葉に耳を傾けながらも、冷静な態度を崩さなかった。「それはわかっている。しかし、慎重に状況を見極めなければならない」
こうしてエリディアムでは、クレスウェル家を巡る各家の思惑が渦を巻き始めていた。商業的な利害や軍事的な備え、政治的な策略が交錯する中、エリディアムの未来はかつてない緊迫感に包まれていった。