影の帳を広げる
リダルダ・カスピアンは、薄暗い書斎で巻物を広げながら、静かにペンを走らせていた。ここは彼がエリディアムで築き上げた隠れ家であり、月の信者たちが彼の指示を待つ場所だった。巻物には、クレスウェル家の動向や同盟者たちの関係が詳細に記されていた。彼はそれを丹念に読み返しながら、次の手を考えていた。
「クレスウェル家は慎重だ。ガイウス・クレスウェルは、どの貴族よりも用心深い」彼は心の中で呟いた。彼の表情は冷たく、その目には緻密な計画を巡らせる光が宿っていた。彼は、クレスウェル家を崩壊させるためには、その同盟関係を断ち切ることが鍵だと理解していた。
書斎の扉が開く音がし、月の信者の一人が静かに報告に入った。「リダルダ様、アルヴァレス家の動向が明らかになりました。彼らは、クレスウェル家との取引を再確認しようとしています」
リダルダは顔を上げ、報告者をじっと見つめた。「アルヴァレス家か……彼らは利を求めるが、裏切りの兆しがあればすぐに反応するだろう」彼は一瞬考え込み、そしてゆっくりと頷いた。「よろしい、我々もその兆しを見せるとしよう。彼らにクレスウェル家が我々にとって脅威になる計画を立てているという噂を流すのだ」
報告者が静かに頷き、退出するのを見届けた後、リダルダは再び目の前の巻物に視線を戻した。「このゲームは、誰が最も巧妙に動くかにかかっている。クレスウェル家が築いてきた絆を、我々の手で切り裂くのだ」
数日後、リダルダはエリディアムの郊外にある、貴族たちがよく集まる小さな狩猟小屋に足を運んでいた。そこでは、クレスウェル家と長年の同盟関係にあったドレヴィス家の代表者が待っていた。彼は冷静に挨拶を交わし、そして手土産として選んだ上等なワインを渡した。
「あなた方の家とクレスウェル家が、長年にわたり強固な絆を保っていることは、我々も承知しています」リダルダは静かに微笑みながら言葉を続けた。「しかし、最近、我々の耳に入ってきた話によれば、クレスウェル家が独自の計画を進めているとか」
ドレヴィス家の代表者は眉をひそめた。「独自の計画?何のことだ?」
「正確には申し上げられませんが、どうやらクレスウェル家は、自分たちの地位を強化するために、密かに別の貴族と連携しようとしているようです」リダルダは言葉を曖昧にしつつも、確信めいた口調で語った。「あなた方のような長年の同盟者にとって、見過ごせない事態かもしれません」
代表者の顔には迷いが浮かび、そして彼はワインの杯を握り締めた。「……もしそれが真実ならば、我々の立場も考え直さなければならないかもしれない」
リダルダは内心で微笑んだ。「こうして、不和の種を蒔いていくのだ」彼は冷静に、しかし確実に計画を進める手応えを感じていた。
「お互いにとって最善の道を探りたいと思います。何か進展があれば、またお知らせします」リダルダは柔らかい笑みを浮かべ、杯を掲げた。その背後には、周到な計画と冷徹な意図が隠されていた。
狩猟小屋を後にしたリダルダは、月明かりの下を歩きながら、クレスウェル家がどう反応するかを楽しみにしていた。「彼らが次に何をするか、その動きを読むのが我々の勝利への道だ」