リディア失踪の知らせ
エリディアムのクレスウェル家の館。朝の光が窓から差し込み、部屋を柔らかく照らしていた。だが、普段の穏やかさとは裏腹に、エリーナ・クレスウェルの心には冷たい不安が広がっていた。姉リディアから最後の手紙が届いたのは、はるか前のことだった。手紙には道場での修業の様子や、仲間たちと過ごす日々が簡単に綴られていただけで、最近の行動については何も語られていなかった。
朝、静寂を切り裂くような足音が廊下に響き、執事が戸をノックした。「エリーナ様、少々お時間をいただけますでしょうか……」
彼の表情に緊張が走り、エリーナの胸にざわめくものが湧き上がった。導かれるようにして館の奥の部屋に向かうと、両親であるガイウスとアンナが待っていた。いつも毅然とした佇まいの母も、何かを押し隠すかのような曇りがちの表情を浮かべている。
「お父様……お母様……いったい何があったのですか?」エリーナがたまらず尋ねると、ガイウスがゆっくりと頷き、慎重に言葉を紡ぎ始めた。
「エリーナ、冷静に聞いてくれ。お前の姉リディアのことだ……しばらく連絡が途絶えているのは知っているだろう?実は、リディアが任務についていた場所から消息が不明だと報告が入った。彼女の姿を確認できていないと」
「そんな……」エリーナの声はかすれ、体中が震えた。以前に届いた手紙には、いつもと変わらない姉の姿が綴られていたのに。剣術に励み、仲間と共に戦いに挑む姿が目に浮かぶ。しかし、そんな彼女が今どこにいるかもわからないなんて。
「お姉様が……どうして……」エリーナは言葉にならない想いを胸に抱え、顔を伏せた。
アンナがエリーナの手をそっと握りしめ、声を震わせずに静かに語った。「大丈夫よ、エリーナ。お姉様は強い子だから、必ず無事に帰ってくるわ」
エリーナは、母の言葉に救いを求めるように目を上げた。「でも、最後の手紙が来てからずっと待っていたのに……お姉様がどこかで助けを求めているかもしれない。私にも何かできることがあれば……」
父ガイウスが深い息をつき、冷静な声で言った。「私たちは今、情報が届くのを待つしかない。捜索も進めている。お前も心を強く持ち、落ち着いて待つことが一番の支えとなる」
エリーナは静かに頷いたものの、心の奥にわだかまる不安は消えない。最後の手紙を手に取り、指先で封をなぞりながら、リディアが無事に戻る日を祈るしかないことを改めて感じた。そして、姉の帰りを待つ日々がどれほど長く、そして辛いものになるかを思い知らされるのだった。
その時、エリーナは固く心に誓った。姉が戻った時、必ず自分も強くなって彼女を支えようと。